それは舞い散る桜のように

BasiL


主人公は、多感な少年時代を桜坂市で過ごし、一度はその地を離れたが、進学のために、再び、この街に戻って来た青年。
幼い頃の記憶は、忘却の彼方……、見る風景、全てが新鮮に感じていた。
しかし、思い出の中で、唯一、忘れられずに存在している場所があった。
それが2本の桜が寄り添うように並んでいる小高い丘。
その丘から見える風景に、こみあげてくる懐かしさ感じながらも、形容しがたい不思議な感情が湧き上がってくる。
それが何であるかわからないまま、2度目の桜が舞っていた……。
新鮮さと懐かしさは、既になく、いまでは、楽しくもつまらない、いつもながらの日常を送っていた主人公。
そんな何気ない日常のなか、主人公は、忘れていた幼い頃の記憶が呼び起こされるのであったが……。


サイト自体が消滅してしまったBasiLの『それは舞い散る桜のように』です。現在スタッフの大半はNavelに移動してしまいました。ショック。

シナリオライターは王雀孫氏とあごバリア氏。
メインシナリオライターの王雀孫氏は新幹線の名前を冠しているキャラの担当。希望や小町と言ったメインヒロインと一部のサブキャラですね。
サブシナリオライターのあごバリア氏は新幹線の名前を冠していない―――子供連中と一部のサブキャラの担当です。

 この『それは舞い散る桜のように』はクリア後も謎が多く残り、未完成の作品とよく言われています。
現に『けれど輝く夜空のように』というタイトルで続編が出る予定だったようです。
 聞いた話では子供連中と桜花のその後の話と言うことらしいので『けれど輝く夜空のように』のもし借りに発売されるとなったのならメインライターはあごバリア氏にだったのではないでしょうか?
私的にあごバリア氏の書くシナリオにはあまり魅力を感じないので、もしその通りだったら買う気はしませんが…。

 まぁそんな勝手な推察をしても、BasiLは解散してしまった今では何の意味もありませんけど。


 このゲームの一番の見所はシナリオよりテキストにあります。
とにかく日常会話の面白さは他の追随を許しません。主人公を初めとして、このゲームのキャラクターはボケ担当ばかりなのでボケをボケで返してプレイヤーが心で突っ込むというのが基本スタンス。 ボケっぱなしで、そのボケの意味すらも説明されないことが多いんですが、これが本当に面白い!これほど笑えるゲームは他に知りません。

 しかし、ギャグは一級品でもシナリオはまた別な話です。
このゲームの悪いところは個別シナリオに入ってから―――シリアス部分に問題が出てきます。
 各ヒロインと恋人になるまでの過程は面白いんです。ギャグのセンスも素晴らしいんですが、 恋仲になる過程もライターが萌えを熟知しているのか素晴らしいものになっています。メインヒロインの希望なんてコテコテでお約束な内容なんですけど萌え狂います。ですが、その後がよくありません。このゲームの核となるシナリオ終盤に問題があります。典型的な竜頭蛇尾ゲー。
 クリア後に考察できる範囲で幾つか謎が残るんですけど、その謎そのものになんら興味が沸きません。

 物語の核となる部分の体たらくっぷりにも問題がありますが、さらに問題なのが核の部分となるイベントが全キャラ全てが同じ内容です。使い回しです。スタッフのやる気が感じられません。

 本作品のVFBには「主人公とヒロインの悲恋が書きたかった」と書いてあるので”主人公とヒロインが別れたという結果”だけを重視し、”何故別れたのかという原因”は非常に蔑ろにされています。 ケンカ別けれとかではなく、主人公に対しての恋心に関する記憶だけの消失という、なんともまぁ盛り上がりを見せない終わり方です。
 つまりは『それは舞い散る桜のように』に置ける話の核はライターにとってもどうでもいいものだったのかもしれません。まぁそれでもシナリオによってはその消失イベントもハッとするものもありましたが。希望に関しては本当に上手いと思いました。 覚えているように見せかけて置いて一度は期待させておき、後からどん底に落とすという衝撃は効きましたね。


キャラ別感想

桜井舞人

 主人公。エロゲー至上最も好きな主人公。
万年躁状態の危ない人ですが、豊富な語彙による言葉遊びのようなギャグはオモロ過ぎます。
 実際のところ、そのギャグは自分の真意を他人に悟らせないための、心の壁のようなものらしい。
その所為か友達があまりおらず、山彦にそのことをよく揶揄されています。

 過去のトラウマからか心の奥底では恋愛を恐れているので女の子に興味が無い。なので精神的なインポテンツ野郎な不健全な野郎でもあります。
 ゲーム中には顔は出てきませんが、説明書に載っている顔はかなり男前。


星崎希望

 本作のメインヒロイン。舞人のクラスメート。桜坂学園のプリンセスと影で呼ばれるほど人気が高い。
性格は至って気さくで、舞人をあだ名でさくっちとよんだりしており、よく冗談でふざけあっています。話を無理矢理きれいにまとめるという得意技を持っている。
 自分が人気が高いということを自覚しておらず、希望と仲の良い舞人はよく敵意の視線を浴びます。
主人公も希望に対して「メスブタ」呼ばわりしているので、そのくらいの仕打ちは仕方がないのかもしれません。
彼女のシナリオは一番出来がいいです。特に恋人になるまでの過程はピカイチですね。


雪村小町

 主人公と同郷の出身で、主人公を追いかけて桜坂学園に入学しました。学年は一つ下です。
しかも住んでいるアパートまで一緒にするという、下手したらストーカーより凄い執心。
 性格は舞人に対しては過剰なまでの従順さを持っています。
「アパートと学校では近づくな」と冗談半分で言った舞人の言葉をそのまま真摯に言葉通りで受け取り、一切近づいてきません。ホント不憫だわ〜。 希望シナリオでの「嘘ですよ、そんなの…知った風なこと…言わないでください…」という舞人に聞こえないように呟いた一言はゲーム中で一番辛かったです。
 普段から口から先に生まれたかのようなマシンガントークを得意とし、ボケの主人公を突っ込みにさせるほどの実力の持ち主です。
元から人気の高いキャラですが、かくいう私も一番好きなキャラですね。


八重樫つばさ

 舞人のクラスメートで、スポーツも勉強も人並み異常にこなす秀才。好奇心の塊のような性格。
何事にも興味を持ち、趣味の幅はかなり広いです。
舞人とは去年から同じクラスで何かと付き合いがいい人。特定の分野だけですが、舞人と波長が合います。
 恋愛に対して何か達観した考えを持っており、恋愛否定組に属しています。


里見こだま

 上級生で文芸部。ロリで巨乳という難しい属性持ち。
外見も子供な上、性格も子供、本人はそのことを内心は気にしており、そのことを揶揄されると怒る。
文芸部に属していることもあり、将来はその道で食べることを目指していることもあって過去の偉人の言葉や文学に詳しい。


森青葉

 同じアパートのお隣さん。主人公に対し「お兄ちゃん」と呼んでいる。
不摂生な主人公を何かと面倒を見てくれる面倒見がいいお人。
 誰に対してもあれだけ暴言が叩ける主人公も何か彼女だけには色々と甘い。
食に対してこだわりを持っており、普段は柔和な性格も料理に関してだけは悪鬼と化します。 エロスに対して無知な様相を見せていますが、実のところ全てわかった上での計算という説もあります。


このゲームのキモはギャグです。
キャラが非常に立っており、会話のテンポもよく見ていて飽きません。
シナリオは二流ですが、テキストは超一流です。

 ライターの知識の深さと、センスの良さがにじみ出ている作品なのでライターの今後の動向が気になります。遅筆らしいので次回作は当分見込めませんが…。


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