1975年12月。東京のとある公共びるの会議室で小さな催しが開かれた。
参加サークル30余。動員人数約800。ファンによる集会にすぎなかったイベントは、 回を追うごとに規模拡大の一途をたどり、いつしか日本全国のヲタが集まるヲタク最大の祭典になる。
 コミック、アニメ、ゲーム、ノベルなどの表現を主目的とし、一種異様な有象無象が一堂に会す。
エロテッック描写に特化しきった版権無視の2次著作同人誌、同人ソフトが売買される。
独自の解釈で表現されたいろんな意味で犯罪、ないし、風俗営業スレスレのコスチュームプレイ撮影会がそこかしこで展開される。
 世界的規模で見てももっともダメ人間たちによる、世界規模で見てももっとも愛されているイベント。それがコミックフェスティバル。
通称コミフェ。書きたい・伝えたい・(儲けたい)という送り手。欲しい・参加したい・(転売して儲けたい)受け手。
宣伝・告知したい・(グッズ売って儲けたい)企業。その他、正体不明な者たち。全てがなにかに導かれるように、そして−。
 コミックフェスティバル66。
参加サークル数3万6000。出展企業130社。総動員予想人数延べ46万人。イベント開催費用約2億円。
国内最大規模の展示場東館6ホール、西館4ホールを使いきり、さまざまなジャンルにおける最深端の精鋭(=最強にダメまった人/意訳)たちが集う。
男性向け創作・アニメ・ゲーム、同人ソフト、葉&鍵、ギャルゲー(PC・コンシューマ)、創作少年・少女、JUNE、学漫、評論・情報、その他。
開催期間中もっとも男性向けに特化した日。気温、実に44℃。集まった人数、推定17万人。オタク含有率、99.998%。一般人含有率0%。
見渡す限りのオタクたちが、さしたる混乱もなく整然と行列を作り、狂乱の幕開けを待ち続けている。
 新東京臨海高速鉄道臨海副都心線、通称NTWR。おそらく世界で一番混雑する始発電車。
一面に広がるはずの朝日と海と建築物の眺望は、乗客たちの熱気で曇った窓ガラスに覆われ、一瞬たりとも見えることはない。新国際展示場駅から、決して走っているわけではない早足で、一方向に流れていく人の波。

静寂にも似た喧騒、整然にも似た混乱。

個々の自己管理によって限りなく平穏によそおわれた欲望が、欲望が、欲望が。開催の瞬間を待ち焦がれている。
近くのコンビニの棚からはすでにおにぎり、サンドイッチ、ドリンク類が全て消失していた―。


館内放送
「ただいまから、第66回コミックフェスティバルを開催いたします」

今年もまた暑い夏が始まる


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