「文々。異聞録」 第26話



 時刻は昼過ぎ。
  今日は昨日とは違って晴れ模様だった。
  放射冷却の影響で曇の昨日よりも冷え込みが厳しい。

 「うー…、寒いね」

 衛宮邸の玄関先、イリヤが身を震わせてそう呟いた。
  この3人のなかで一番温かそうな格好をしているのはイリヤなのだが。
  本当に寒いのが苦手なんだろう。
  ちなみに文は周囲の目を気にしているのか長袖だが、普段は半袖で過ごしているらしい。
  半袖もそうだがそのミニスカートはどう考えても寒そうだ。
  同じミニスカートの遠坂のようにオーバーニーソックスを履いているわけではない為、露出が激しい。

 「イリヤ。本当に帰るのか?」
  「うん。これ以上ここにいたら名残惜しくて帰れなくなっちゃうから」
  「……そうか」

 ならばこれ以上は引き留めるわけにはいかない。

 ……イリヤにはあれから魔術についていろいろと教えてもらった。
  彼女は聖杯戦争のマスターであって正確には魔術師ではないらしいが、
  それでも半人前の俺よりかは魔術に対する造詣はずっと深い。

  どうやら俺の魔術の本質は強化ではなく、投影にあるらしい。
  俺が魔術で作り出したがらくたを見て驚嘆していた。
  少女曰く、魔術の根幹である等価交換の原則がデタラメなのだと。
  そう言われてもいまいちピンと来なかったが
  「こんなのほかの魔術師に見せたら、バラバラに解剖されちゃうよ?」
 と言うイリヤの台詞に何となく重大性が解った。
  だとすると、俺の伸ばすべき魔術は強化ではなく投影なのだろう。

  そんなイリヤの魔術講座の中、文はずっと赤い顔でぼけっとしていたのを特筆しておく。

 「……途中まで送ろうか?」

 イリヤは少し悲しそうに首を振る。

 「ううん。バーサーカーがいるから大丈夫。
   じゃあね、お兄ちゃん。また会いましょう」

  「……やっぱりダメなんだな」

 その「また会う」は「聖杯戦争で」ということなんだろう。
  少女は俺の再三の説得に首を縦に振ることはなかった。
  だとしても、俺には既にイリヤと戦える気概はない。

 「うん。聖杯はアインツベルンの悲願だから。ごめんね、お兄ちゃん。
  でもシロウとこうやってお話ができて本当に良かった。
  だからもう何も悔いはないの。これで私は聖杯戦争だけに専念できる」

 イリヤは俺からずっと無言の文に視線を移す。
  この天狗の少女は未だ熱病に冒されたようにぼんやりしている。
 そんな文を見てイリヤは表情を緩めて恥ずかしげに紅潮させた。

 「アヤがずっとそんなんだと私も恥ずかしくなっちゃうから!」
  「……ふぇ?」

 いきなり話し掛けられたためか、文が間抜けな声を出す。
 二人とも顔を赤くしている。俺もあのことを思い出して顔が熱くなった。
  この場にいる三者共々顔が赤い。……なんなんだこの集団。

 イリヤが文の無抵抗な右手を両手でギュッと握った。
  懇願するような上目遣いで文を見上げる。

 「……お兄ちゃんをお願いね」

  それはどこか家族を託すような重みのある言葉だった。
  なんだか自分に年の離れた妹が出来たみたいでくすぐったいな。

 「あ、――はい」

 突然のことに文は僅かな狼狽えを見せるが、イリヤの意志を尊重するようにしっかりと返事をした。
  それにイリヤは満足そうに微笑むと握った手を放し身を翻す。

 「じゃあね。ばいばい」

 それだけ言い残すとイリヤは俺たちに背を向けて歩き出した。
 彼女は送られることを拒んだが、せめて姿が見えなくなるまで見送らせてほしい。

  そして、その小さな背中を見ながら決意する。
  彼女は聖杯戦争をやる気だが、こんな馬鹿げた事は必ず止めさせてやる。
 その染み一つない白い手を血で汚しちゃいけない――。


 ――――――――――


 イリヤが衛宮邸を去って暫くして――。

  文は普段通りの明朗な少女に戻っていた。
  しかしここまで回復するのに六時間も要したことに驚かされる。
  英雄色を好むというが、英霊ではない文にとってはその手の免疫はないのだろうか。
  かまととぶっているわけじゃなさそうだし、かなりのウブだ。
  ……何日か前に文を自室に慌てて連れ込んだ時に冗談を言われたが、耳年増なだけだったんだな。
  性の知識を背伸びしたがるなんて、見た目通り少女なのだろう。

 それはさておき、今俺達はこれからの方針についての作戦会議をしている。
  居間の食卓を挟んで、お茶を飲みながらといった緊迫感からはまるでないものだが、
  今まで方針らしきものも決めてこなかった俺達には上等だろう。

 「ええ、体調は万全です。
  ライダーさんにやられた傷もほぼ癒えているので戦闘には問題ないでしょう」

 俺も文と同様にライダーから負わされた傷はあるが、動くのには支障はない程度だ。

 「それはよかった。じゃあ今夜から本格的に巡回する方針でいいか?」

 文がこくりと頷く。今の俺たちには闇雲にサーヴァントを探すしか手立てはない。
 文も情報網として町中のカラスを使いサーヴァントを探らせているらしいが未だ実を結んでいない。
 なんでも「この世界のカラスは誇りと野生を忘れてしまっています。嘆かわしい」だそうだ。

  ……集積所のゴミを漁るカラスをこの世の終わりのような目で見ていた文の姿は忘れられそうもない。

 ――閑話休題。
 聖杯戦争がもっとも活発になる夜まで待って行動を起こす。
  それは言ってしまえば、自分たちが餌となって他のサーヴァントを釣るのだ。
  そして遠坂やイリヤと違って話の通じないような相手ならば倒す。
  学園での惨事をこれ以上は一度たりとも繰り返すわけにはいかない。

  言峰綺礼とライダー曰く、アーチャーはこの目の前の少女なのだという。
  ならば残ったサーヴァントはセイバー、ランサー、バーサーカー、キャスター、アサシンの五騎。

 その中で確認したのはセイバー、ランサー、バーサーカーの三騎。
  未だ見ぬサーヴァントはキャスターとアサシン。
  キャスターは魔術師のサーヴァントであり、対魔力を備えたサーヴァントが
  多いため結果最弱のサーヴァントと言われている。
  そしてアサシンはマスター暗殺に特化した暗殺者のサーヴァントだ。
  俺のような身を守る手段のないマスターにとっては脅威になる。

 所在地がわかりそうなのはセイバーのマスターである遠坂の家ぐらいだろう。
  もちろん遠坂達とは闘いたくないし、罠だらけの魔術師の根城に攻め入るなんて真似はしたくない。
  そもそも遠坂達が街の住人に手を出すとは思えないので、現段階では除外する。


 ――陽はまだまだ高い。ならばやれることはやっておこう。

 「これから出かけようと思うけど文はどうする?」
  「どこに行くんですか?」

 退屈そうにお茶を飲んでいた少女が首をかしげる。

 「ああ、慎二のところだ」

 昨夜はなあなあになってしまったが、慎二のやったことは決して許せることじゃない。
  あいつは人としてやってはいけないことをやってしまった。その決着を付けなければならない。
 過去はどう足掻いても戻すことはできないが、それでもやるべき事はあるはずだ。

 「……あの人間のところですか。ええ、行きましょう」

 それは合点がいった為なのか、文の表情が喜悦に歪んだ。


 ――――――――――


 慎二は戻っているだろうか。

  サーヴァントを失ったとしてもマスターであることには変わりはない。
  そんな状態で町中をふらつくのはあまりに自殺行為。
  聖杯戦争を管理している教会に保護されている可能性も捨てきれないが、
  新都にある教会よりも同じ町内にある間桐邸に行く方が早いだろう。

 文に意見を聞いてみると「居ると思いますよ」とのこと。
  どこか確信めいた言い方だったが、昨日あの後に何かあったんだろうか。

 そんなことを考えているうちに間桐邸に着いた。

 正門を潜って、割と広い庭を抜けて呼び鈴を押す。
  ……暫く待ってみたが反応がなかった。今は学園は休みだし、この家には桜もいるはず。

  荒らされたような形跡はなかったので何者かに襲撃にされたとは考えにくいが、
  何度も鳴らしても反応ないのは何かがあったのではないかと思ってしまう。

 踏み込もうかと考えた時、木作りの扉がゆっくりと悲鳴を上げた。

 「あ、先輩……?」

 扉の先には桜がいた。
  だが、その顔はいつもの血色の良い肌ではなく、蒼白で荒れていた。
  目は一晩中泣き明かしたのかのように赤く腫れぼったい。

  咄嗟に思いつくことは一つ――。

 「桜!慎二にまたなにかされたのか?!」

  慎二は妹である桜に暴力を振るうことはあるのは知っていた。
  それにサーヴァントを失った慎二の怒りの矛先が真っ先に向かいそうなのは桜でもある。
  見た感じ殴られたような傷はないが、これは容認できるレベルじゃない。

 だが、桜は悲しそうに目を細め首を左右に振る。

 「……いいえ、兄さんには何もされていません」
 「じゃあ一体どうしたんだ?!」

 思わず桜の肩を乱暴に掴んでしまう。
  桜の肩は震えており、何かに耐えているようだった。

 暫くして、俺から視線を背けていた桜が苛立ったようにこちらに視線を向ける。

 「そんなの――。そんなの決まってるじゃないですか!
   一昨日の学園で何があったのか先輩なら知ってるでしょう!」

  そうだった。
  公ではガス爆発ということになっているが、学園の生徒がライダーの宝具に巻き込まれたのだ。
  その死んだ生徒の中には桜の友達もいたかもしれない。
  ならば同じ学園の徒としてこれが正常の反応だろう。その考えに至らなかった自分が恥ずかしい。

 「それがどうしたですって!? 白々しいですね!?
  私を責めに来たんでしょう!? それとも先輩は私は殺してくれますか?!」

 だが、その想像とは違うどこかずれた反応を示す。
  口元が自嘲するような笑みが浮かんでおり、目元に涙が零れんばかりに溜まっていた。 
  そして直ぐに自分の発言に絶句したような表情を作る。

 「……ごめんなさい先輩ごめんなさい」

 桜は肩に置かれた俺を手を振り解くと、顔を両手で押さえて泣き出した。

 「……ううう……うう」

 桜はもう立っていることすら出来ずに、見えない糸が切れたように膝から崩れ落ちる。
 ……おかしい。何かがおかしい。

  言っていることの意味はわからない。
  だがそれ以上に今の桜は憐憫とは違う何らかの激情に飲まれていた。

 「そっとしてあげましょうか」

 文が後ろからしれっと言う。

 「こんな桜を放っておけるわけるはがないだろ!」

 そんな無関心とも取れる態度にカッとなる。
  だが文はそんな俺に対して意に介すこともなく、真っ直ぐ俺を見つめて答えた。

 「士郎さん、貴方が桜さんにできることは何の一つもありません。
   下手な慰めは余計に彼女を傷つけることになります」

 「……桜に何かあったかのか?」

 「桜さんはある罪と向き合っています。
  その逃げ出したくなるような罪から逃避せずに目を逸らさずにいること。
  それこそが彼女がやっとの思いで積み上げてきた人間らしさなんでしょう」

 「それって……」

 何もわからない。
  だけど文は俺の知り得ていない桜の何か知っているのは確かのようだ。
 その何か聞き出そうとすると文が手を前に出して発言を制した。

 「私からではなく、彼女自身の口から聞いてください。ですが今はまだ早い。
   ……そうですね。聖杯戦争が終わって、何もかもが落ち着いてからでしょうか。
  彼女がどんな結論を出すのか楽しみですが、その時にはもう私はここにはいないかな」

 ……今まで家族のように振る舞ってきたはずなのに俺は桜に対して何も出来ないというのか?
  こんな桜の大事な時にただ見ているだけなんて桜の兄貴分を語れないだろう。

  それでも何か彼女に出来ることは何かある……そう思いたい。
  だが俺に背を向けて泣き崩れる桜は明らかに俺を拒絶していた。

 「では、慎二さんのところに行きましょうか」

 こんな状態の桜を尻目にすることに罪悪感を覚えるが、
  これ以上は有無を言わせないような文に引きずられるように慎二のところへ行く。

  ここ最近は行くことは減ったが何度目かになる慎二の部屋。文はノックもせずに扉を開ける。

 慎二はベッドの上で布団も掛けずに横になっていた。
 だが目は開いており、ぼんやりと天井を眺めている。
 俺たちが来たことに気づいていないのか素知らぬふりをしているのか、ぴくりとも動かずにいる。

 俺が顔を覗き込んでも瞳は揺れることもなく何の反応を示さない。
  慎二の視界に入っているだろうが、それを情報として認識していないようだった。

 「おい、慎二!」

 慎二を体を左右に揺らすとゆらりと焦点が俺に合った。

 「ああ……衛宮か。どうしたんだこんなところで?」

 気の抜けたような無感情な声。
 感情というものをどこかに置き去りにしたような有様。

 「どうしたって……」

 慎二は俺の言葉に反応を示すことはなく、曖昧な状態のまま何かを語り出した。

 「眠るとな、決まって夢を見るんだ。その夢の中で僕はどこか暗いところにいる。
  暗いと言っても自分の体はちゃんと見えるんだぜ。可笑しいだろ?
  その中で歩こうと思って足に力を入れるようとするんだが、どうしても歩けない。
  ……どうしてだと思う?下半身を見ると足の付け根から先がなくなっているんだ。
  それも両足だぜ?それで慌てて這おうと思っても腕もないことに気づく」

 「慎二……、何を言っているんだ?」

 慎二は俺の声が聞こえていないのか、間を開けることなくぶつぶつと話し続ける。

 「両手足がないことに驚いて悲鳴を上げようとすると、喉から得体の知れない異音が出るんだ。
  そして気づくんだ。俺の体は四肢がなくなったたけじゃない。
  俺に何が起こったと思う?俺は人間じゃなくてぶよぶよした芋虫だったんだよ。
  へへへへ、傑作だろ!
  だけど夢じゃなくて紛れもない現実なんだぜ。何でかわかるか?
  この瞬間の俺も間桐慎二という人間の夢を見ている芋虫なんだ。ひひひひ」

 慎二が乾いた声で笑う。

 「間桐慎二の夢が覚めたら芋虫の俺が這いずっているんだ」

 その常軌を逸した慎二の状態に圧倒されそうになる。

 「…………。おい!慎二!一体どうしたんだ!」

  無表情だった慎二の表情が狂気に彩られていた。
  眼球が散漫な運動をしており、三日月のように開いた口の先からはだらしなく涎が零れる。
 俺の言葉もまるで届かずに壊れた玩具のように哄笑をカラカラと繰り返していた。

 ……このベッドに横たわっている男は本当に慎二なのか?
  俺の知っている慎二とあまりにも違いすぎる。傲岸不遜な男はどこにいってしまったんだ。

 「――慎二さん。貴方は蝶になれましたか?」

 部屋の入り口辺りで様子を見ていた文が部屋へと侵入した。
 俺の事は全く意に介していなかった慎二が一瞬だけ我を取り戻したようにぴたりと笑うの止める。

 慎二は文だけを見つめて動かない。
  そして文の存在を認識すると、てんかん患者のように体を痙攣させた。

 「しかし芋虫ってなんでしょうか。あれはそんな薬じゃないですけどね。
  やはり魔術師でもないようなただの人間には過ぎた薬だったんでしょうか」

 文は異常な状態の慎二に気にも留めず側へと近づく。
  慎二は悪夢から覚めたようにベッドから跳ね起きて、部屋の隅へと転びながら這いずる。

 「ひぃぃ!ひいいいぃぃぃ!!」

 全身が恐怖で竦んでおり、それでも文からは目を離さず背面の壁を爪でガリガリと削っていた。

 「……んー。何もそんな驚かなくてもいいんじゃないですか?」

 文は慎二の有様に呆れた感じでクスリと笑う。

 「文、慎二はどうしたんだ?」

  「その、なんて言えばいいでしょうか。
   逃げる彼を発見した後に少しばかりお灸を据えただけなんですけど。
  あ、もちろん体に危害は加えてませんよ。
  でも、その時にちょっとした悪戯心で胡蝶夢丸ナイトメアという蝶になって飛ぶ夢を
  見ることができる薬を飲ませたんですが、本来とは別の作用が働いたみたいですね」

 文は困り顔で俺の顔を見た。
  そんな顔をされても俺もどうしたらいいのかわからない。

 それでも一つだけわかったことがある。
  芋虫から蝶へ。人から魔術師へ。
  ただの人間であった間桐慎二は結局、魔術師になれなかったのだろう。

 「まぁまぁ落ち着いたらどうですか。慎二さん」

 文は優しく語りかけるが、慎二は恐怖に顔を引きつらせて首を左右にブンブンと振った。

 「…………あー、その慎二さんに関してもその、また後日ということでどうでしょうか?
  なんだか心神喪失一歩手前といった状態ですし。このまま有耶無耶にしようとは思いません」

 文が気まずそうに頭を掻いた。

 「ああ、そうだな……」
 「慎二さんから何か聖杯戦争の有益な情報でも聞ければなと思っていたんですけど」

 慎二の敵は俺たちだけではない。
  ならば他のサーヴァントの情報も知っていた可能性もあったかもしれない。
  だが、慎二がこんな有様ではその望みも薄そうだ。

 それに慎二もそうだが、桜が何よりも気がかりだった。
  このまま胸にしこりを遺したまま間桐邸を後にすることになるのだろうか。

 そんな中、頭を抱えて震えていた慎二が何かぼそぼそと呟く。

 「慎二?」
  「……りゅ、柳洞寺。柳洞寺だ!!」

 「ん? なんて言いました? りゅうどうじ? お寺ですか?」
 「…………!」

 文に顔を覗き込まれた途端、慎二は恐怖に喉を詰まらせて、壁に寄りかかったまま気絶した。
  よく見ると、失禁さえもしていた。
  灸を据えたと言ったが、文に慎二をどんな目に合わせたんだろうか。

 「あやや。……で、士郎さんは知ってますか?」
 「よく知っている。柳洞寺は学園の友人の家でもあるからな」
  「なるほど。どういうことなんでしょうね」
  「――わからない。でも行く価値はあるかもしれない」

 再び玄関に着くと、桜の姿がなかった。トクンと心臓が大きく跳ねる。

  もしやと思い、桜の部屋へと走る。
 扉を開けようと、ドアノブに手を掛けた時、扉越しにすすり泣く声が聞こえていた。
 最悪の事態には至ってはいなかったが、それでも慰められるような状況でもない。

  ……何も出来ない自分が悔しくて奥歯を噛み締める。
  このままドアノブも捻る気にはなれなかった。

 これもまた聖杯戦争から産まれた傷の一つなのだ。
  桜だけではない。こんなことで誰かが泣くようなことは絶対に許されない。
  このふざけた戦いを一刻でも早く終わせるのが最短の道なのだろう。



 後書き

 暗い話になってしまった。

 2008.3.14


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